映画『オルジャスの白い馬』少年の心に吹き込んだ、疾風(しっぷう)のような出会い。

森山未來が初めて海外作品お主演に挑み、オール・カザフスタンロケを敢行した意欲作

2020年1月18日(土)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー

INTORDUCTION

イントロダクション

森山未來が初めて海外作品の主演に挑み、オールカザフスタンロケを敢行!カンヌ国際映画祭主演女優賞に輝いたサマル・イェスリャーモワとのダブル主演!日本勢として16年振りの快挙となる釜山国際映画祭のオープニング作品に決定!

日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』の主演を務めるのは、大河ドラマ「いだてん」の美濃部孝蔵役などで常に新しい挑戦をし続ける森山未來と、『アイカ(原題)』で2018年カンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞に輝いたサマル・イェスリャーモワ。アジアを代表する若手国際派俳優2人によるダブル主演となる。森山は初の海外主演作となる本作で、愛する人に真実を語れない不器用な男カイラート役を全編カザフ語で熱演。草原を鮮やかに馬で駆け抜けるなど新境地を見せている。
また、アイグリ役のイェスリャーモワも、カンヌのほかに第19回東京フィルメックスで最優秀作品賞、さらに、アジアフィルムアワード、ゴールデンオレンジアワードの最優秀女優賞を受賞しており、カザフスタンを代表する国際派女優としての評価を高めている。

さらに、本作は第24回釜山国際映画祭のオープニング作品としてワールドプレミア上映されることが決定。日本が製作に関わった作品がオープニング作品に選出されたのは2003年の第8回以来16年ぶりだ。例年約20万人が訪れているアジア最大級の同映画祭は、今年で韓国映画100周年という大きな節目でもあり、映画祭でもっとも注目を集めるオープニング作品という重責を担うことになる。

監督・脚本は、日本人監督とカザフスタン人監督が共同で担当。日本側からは竹葉リサ監督、カザフスタン側からはエルラン・ヌルムハンベトフ監督が参加した。撮影は『ハーモニー・レッスン』(2013/エミール・バイガジン監督)で、第63回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(撮影に対する芸術貢献賞)を受賞した若き名手アジズ・ジャンバキエフ。天山山脈に抱かれた雄大な自然とそこで起こる人々のドラマを詩情豊かに捉えている。2018年10月から約1ヶ月かけ、全編カザフスタンロケで行われた撮影において、森山未來は単身で現地に入り、制作スタイルはおろか映画産業のシステム自体が日本とは全く異なるカザフスタン人スタッフ達との共同作業に臨んだ。

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STORY

ストーリー

自らを父と語れない男と、父を失ったばかりの少年 言葉は少ないが次第に通じ合う2人—— カザフスタンの大草原を舞台に描かれる普遍的な父と子の物語

夏の牧草地、草の匂いが混じった乾いた風、馬のいななく声。広大な空に抱かれた草原の小さな家に、少年オルジャス(マディ・メナイダロフ)は家族とともに住んでいる。水浴びに訪れた水着姿のロシア女性に釘付けになり、父親の仕事を手伝いたいがまだ早いと拒まれる。夢見がちで早く大人になりたい年頃の彼は、果てしない空に抱かれながらも、どこか行き場のない想いを抱えている。
ある日、馬飼いの父親が、市場に行ったきり戻らない。雷鳴が轟く夕刻に警察が母親のアイグリ(サマル・イェスリャーモワ)を呼び出す。不穏な空気とともに一家の日常は急展開を迎える。時を同じくして一人の男・カイラート(森山未來)が家を訪ねてくる。

突然父を失った一家の前に現れた男カイラートは、8年前に失踪したアイグリの昔の恋人だった。実は、自分がオルジャスの本当の父親だということを黙っていることを条件に、従兄弟の家まで同行することを許される。カイラートは無口ながらも、オルジャスに寄り添い、馬で一緒に草原を駆け抜ける。ぽつりぽつりと言葉の少ない2人は、お互いに絵の才能を認め合い、いつしか心を通わせるようになっていた。
ところが、従兄弟の家までの道中で、アイグリたちの車が故障してしまう。カイラートとオルジャスは、カフェで従兄弟兄弟に連絡をするように頼まれる。しかし、その立ち寄ったカフェで、亡き父親の腕時計をした男を見つけたオルジャスは——。

果てしない空と大地の中心で、普遍的な父と子の物語を詩情豊かに描き出す。ソビエト連邦崩壊によって未曾有の経済危機に見舞われた1990年代のカザフスタンを舞台に、急速に近代化する世界から切り離された草原の真ん中で暮らす人々の心情をリアルに描きながら、剥き出しのリアリズムに陥ることなく、繊細で叙情豊かに少年の成長を映し出す。本作は大草原を舞台に繰り広げられるヒューマンドラマだ。

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CAST

キャスト

森山未來

主演:森山未來カイラート役

1984年、兵庫県出身。演劇、映像、パフォーミングアーツなどのカテゴライズに縛られない表現者として活躍している。映画出演作としては『世界の中心で、愛を叫ぶ』(04)『その街のこども 劇場版』(10)、『モテキ』(11)『セイジ -陸の魚-』『苦役列車』『北のカナリアたち』(12)、『人類資金』(13)、『怒り』(16)『サムライマラソン』(19)『“隠れビッチ”やってました』(19冬公開予定)などがある。 19年大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」に出演中。
【公式サイト:miraimoriyama.com

第24回釜山国際映画祭オープニング作品決定への喜びのコメント

あらゆる文化が交差する、ユーラシア大陸のへそ。
そんなカザフスタンに横たわる力強い大地に、
東アジアの端からささやかな風が吹き抜けるようにこの作品に携わっていた気がします。
才能溢れ、気さくで温かいスタッフ、キャストのみなさんと
同じ時間を過ごせたことは僕の財産になりました。
釜山映画祭であの空気感を観客のみなさまに体感していただけることを、
心より嬉しく思います。

サマル・イェスリャーモワ

主演:サマル・イェスリャーモワ
アイグリ役

1984年9月1日 生まれ。カザフスタン出身。女優。セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督の『トルパン』(2008)で映画女優としてのキャリアをスタート。同作はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ受賞作、第21回東京国際映画祭で、コンペティション部門の最高賞、東京サクラグランプリ、最優秀監督賞の二冠を受賞など高い評価を受ける。再びドヴォルツェヴォイ監督とのタッグで臨んだ『アイカ(原題)』(2018)ではモスクワに不法滞在する移民女性の過酷な運命を迫真の演技で演じきり、第71回カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞に輝く。同賞は、CIS(独立国家共同体)での受賞は初めて。カザフスタンだけでなく、海外との共同製作映画に多数出演している国際派女優としても活躍している。

コメント

日本とカザフスタン合作の一員になれたことは大変光栄です。
カザフスタンの驚くほど美しい風景の中の撮影はとても素晴らしい時間でした。
森山さんは非常に素晴らしい調和のとれた人柄でとても演技がしやすく、偉大な俳優です。
この映画のアイグリは、あまり感情を表に出さない女性ですが、
人生の意味が自分の子供にあることを理解しています。
彼女の草原での暮らしは、私にはとても馴染みがありました。
まだ近代化されていない家事や子育て、馬の世話、
子どもの頃は身近だったため、すべて自然に演じることが出来ました。

STAFF

スタッフ

竹葉 リサ

監督:竹葉リサ(たけば りさ)

1983年生まれ。2014年に監督・脚本を手がけた初の長編『さまよう小指』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014で最高賞とシネガーアワードを受賞。同作はロッテルダム映画祭、シッチェス映画祭にも招待された。2作目の長編『春子超常現象研究所』もロッテルダムやシッチェス映画祭でも絶賛され、モスクワ国際映画祭でも上映。最新作となる長編ホラー『シグナル100』(2020年1月公開予定)はシッチェス映画祭でも上映される。

——本作の製作には、竹葉監督が中央アジアで映画を撮りたいという夢がきっかけとなりました。なぜ、中央アジアに惹かれたのでしょうか?

映画を撮りはじめる前の唯一の趣味はバックパッカーでした。遠藤周作さんの「深い河」や沢木耕太郎さんの「深夜特急」を読んで、大学時代からバックパッカー旅行に明け暮れていました。高校生の時に見た『ルナ・パパ』(1999年/バフティヤル・フドイナザーロフ監督)を観てから、一度でいいからウズベキスタンへ訪れてみたくて、実際行ったら本当に美しい国だったのです。それから、中央アジアの虜になってしまい、いつか中央アジアで何か素敵なことができたら、と漠然と考えていました。

——今回の映画は竹葉監督の持ち味ともいえる可愛くてポップな作風を封印し、静かな映像で語りかけるような、まったく逆とも言える作風に挑戦されていますね。

2020年1月に公開される「シグナル100」もホラーなので、ファンタスティック系の映画を撮っているという印象が強いかもしれませんが、本来、安房直子先生、大海赫先生の児童文学が好きで、それに影響を受けた短編映画を過去に何本か自主制作しています。『ミツバチのささやき』、『オリーブの林を抜けて』その他、コーカサス系の映画や『少年、機関車に乗る』なども好きで影響を受けています。

——イランのマジッド・マジディ監督の『運動靴と赤い金魚』が好きだとも聞きました。オルジャスの瑞々しい演技が素晴らしかったです。少年を描くシーンで意識はあったのでしょうか?

そうですね。『運動靴と赤い金魚』は大好きな作品です。それと、私には兄が二人いるので、育った環境から、少女より少年に共感しやすいのかもしれません。この映画は、オルジャスが父親を2度失う体験をし、成長するストーリーです。どんな子どもも、大人と子どもの境目がいつか訪れます。わたしは「越境」に対する興味が強く、バックパッカーになったのもそのためなのですが、成長は子どもから大人への「越境」だと考えています。なので、本作でも大人と子どもの境界線を模索し描きたいと思いました。

エルラン・ヌルムハンベトフ

監督:エルラン・ヌルムハンベトフ

1976年カザフスタン生まれ。2000年、カザフスタン国立芸術大学脚本科卒業。数本の短編映画を監督した後、2011年に佐野伸寿と共同監督した『春、一番最初に降る雨』(日・カザフス共同製作)で監督デビュー。カザフスタンで開催されたユーラシア映画祭で最優秀作品賞、アルメニアで開催されたゴールデン・アプリコット映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。同作品は東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門に選ばれ、また限定的ではあるが大阪で劇場公開された。2015年、初の単独監督作品である『Walnut Tree(クルミの樹)』を監督。同作品は韓国・釜山映画祭で最優秀作品賞を受賞した。2017年Kazakh National «TULPAR» awardsでは作品賞、監督賞を受賞。

——本作は実際に起こった事件が元になっていると聞きました。どんな事件だったのでしょうか?

この悲劇は数年前にカザフスタンで実際に起こった事件に着想を得ました。ギャングによって、馬飼いの3兄弟は殺されました。殺された3人にはそれぞれ子供がいて家族がいました。私はこの事件を新聞で読み、突然父親を失った彼ら家族のことを想い胸を痛めました。虚無感、喪失の痛み、奪われた希望をスクリーンで描きたいと思いました。

——映画の舞台になった年代は、いつ頃のものなのでしょうか?

この映画は、90年代を舞台としています。当時はソビエト連邦崩壊後の混乱した時期であり、人の命に価値はありませんでした。人々は飢え、お金のために人を殺し、多くの人が犯罪に走りました。この物語で描かれる家族は、都市から遠く離れた草原に住んでいますが、遠く忘れられた場所でさえ、時代の影響の余波はあるのです。主人公の少年の幸せで牧歌的な世界が、残酷な悪によって破壊される、少年の純真な心や無邪気さが、凶悪な現実と対峙し変化する様をカザフスタンが再生する姿に重ねたかったのです。

——カザフスタンの風景がとても美しく叙情的な印象を受けました。どのような意図で作品を撮られたのでしょうか?

映画とは不思議なもので、私たちが撮影している間に存在した光と映像と音で作られています。それらは、全て過去に存在したと言ってよいでしょう。この映画で私は、家族の失われた物語を照らしたかった。過去に存在したイメージで、父親を殺された家族の失った未来を描き、虚無感を満たしたかったのです。イメージはつかみ所のない空想と現実を混ぜ合わせたような仕上がりになりました。

——影響を受けた映画作品があれば教えてください。

コーエン兄弟による『ノーカントリー』(2007)や、新藤兼人監督の『裸の島』(1960年)、アレクセイ・ゲルマン監督の『わが友イワン・ラプシン』(1984年)などに特に影響を受けました。

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NOTE

プロダクションノート

竹葉監督の撮影日誌より

● 企画の成り立ち

この映画の実現には、同じ中央アジアに位置するタジキスタン映画のバフティヤル・フドイナザーロフ監督の名作『ルナ・パパ』に導かれたような偶然の出会いがありました。高校生のころ観た『ルナ・パパ』の世界にあこがれ、ロケ地を訪問し中央アジアの魅力に取り憑かれてしまいました。その後映画を撮るようになり、三十代のうちに、どうしても海外共同制作映画に携わりたくて、カンヌ国際映画祭のプロデューサーズネットワークに参加したのです。パーティーへ参列中に、隣に立っている『ルナ・パパ』に登場する女優のような美人が目に留り、思わず声をかけました。それが、後に本作のプロデューサーとなるキム・ユリアさんでした。彼女の紹介で、共同製作でカザフスタン側の監督になったエルラン監督を出会います。しかし、エルラン監督の口から、『ルナ・パパ』のフドイナザーロフ監督は二年前(2015年)に亡くなっていたことを知らされます。失意の私は、強い喪失感から「一緒に映画を撮りましょう」と目の前のエルラン監督に衝動的に申し込み、「ダー(YES)」というやり取りからこの企画が始まりました。

● 難航する脚本づくり

プロダクションノート写真1

原題の「Horse Thieves」は、実際に起こった馬飼いの3兄弟がギャングによって殺された事件をモチーフにしています。エルラン監督は、「突然愛する人を奪われた家族が持つ虚無感、喪失の痛み、失われた希望をスクリーンで描きたかった」といいます。しかし、初稿は風景が主体のポエジーで散文的ものでした。さすがに、本作が見られるマーケットを考え、もう少しエンタメ性を加えなくてはと、プロデューサーの市山さんと一緒に、加筆修正を繰り返し提出しました。第二稿は森山さん扮するカイラートの献身さがもっと強調される内容でしたが、登場する西部劇的な悪役がNGでした。カザフスタン側は文化庁の傘下にある国営スタジオが出資をしているため、過激な描写は避けなくてはならなかったのです。脚本の修正が平行線を辿る中、私はエルラン監督が教鞭を揮うカザフスタンの首都アスタナ(現・ヌルスルタン)にある総合芸術大学を訪れました。そこで思いがけず特別授業をすることになりました。大学の授業では、日本の古い作品、黒澤明監督や小津監督の作品は上映されているので。私は、カザフで上映される機会がない「東映の女番長シリーズ」やATGの作品を紹介しました。さらに私が訪れた頃、ちょうどエルラン監督がカザフニューウェイブの短編作品を大学のシアターで上映していました。学生たちと一緒になって、日本では公開されていないカザフ作品を観ました。その体験があって、「ストーリーを楽しむよりも、情感を優先する」というカザフ映画の作風の傾向を知り、日本の理屈でがんじがらめにしてしまうと、彼らの独特なドラマツルギーの良い点を壊してしまう、と考えるようになりました。夜は、エルラン監督に誘われて彼の家族の夕食に招かれました。彼が言うにはカザフスタン人はウォッカを飲みながら打ち合わせをするそうです。本当かどうか分かりませんが、この時から方向性も定まり、制作がスムーズに進むようになりました。

● オルジャス役のオーディション

主人公のマディ役のオーディションでは、私とエルラン監督は満場一致でマディに即決しました。マディの哀愁あるルックスに、ソ連崩壊後にカザフスタンという国が生活を立て直し、成長していく姿を重ねたかったのです。マディは、数回ドラマに出ただけの演技経験のない子役でしたが、現場でどんどん「役者」へと成長したように感じます。思い出深いのは、オーディションの最中に、マディの村に行ったことです。家では、マディの両親が、カザフ式のもてなしでプロフ(カザフスタンの郷土料理の肉入りピラフ)をご馳走してくれました。帰りには、お土産に庭のヤブー(りんご)を袋いっぱいに詰めてくれました。

● 撮影スタート

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映画の現場ではカザフ語とロシア語が併用されています。スクリプト・ドクターのサルタナットが、私たち監督と役者の間に立って、美しいカザフ語で仲介をしてくれました。驚いたのが、日本だと、段取りの前に役者の芝居の通しをしますが、カザフスタンでは通しをしないのです。カザフスタンはロシアの俳優同様に、エリート中のエリート、芸術大学でスタニスラフスキー・システムを学んでいるので、要求されることに即座に対応出来るよう訓練されています。だから、現場はフレーム優先でその都度撮り順を決めていく、導線もどんどん変わり、編集も繋がりにくそうで怖かったです。全体が意思の疎通が難しくなるくらいフレキシブルでした。でも、彼らの凄いところは、とっさの機転が利くところです。土壇場での火事場の馬鹿力は「流石、遊牧民族だな」と感心しました。

● 「モジェットブイチ(多分ね)」

エルラン監督が60年代のビンテージのバイクを愛用していて、エンストしまくって撮影が中断したことが多々ありました。エルラン監督の口癖は「モジェットブイチ(多分ね)」なのですが、無責任のようにも、前向きな発言にも捉えられます。真面目な日本人なら発狂しちゃいそうですね。しかし、彼らの国では、市場経済を導入する以前は真面目に仕事をしていても、国の方針がガラリと変わってしまうようなことが繰り返しあり、「多分ね。」で前向きに乗りきってきたのかなとも想像しています。窮地に立たされた時、日本人ならナーバスになるようなことも、カザフスタン人スタッフは落ち着きが半端なかったです。

● カイラートの銃撃戦のシーン

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映画の見せ場である森山さん扮するカイラートが悪役を追いつめ、銃撃戦となるシーンの撮影。森山さんが華麗な手綱な捌きを披露する横で、私は懊悩していました。カイラートは銃で撃たれて流血するし、落馬シーンもあるのに、衣装さんが用意したコートは一枚しかありません。順撮りにしないと血糊と汚れが不自然になってしまう…と話し合うと、撮影監督のアジズとの段取りの結果まったく順撮りではないままシーンの撮影がスタート。発砲シーンの後、森山さんの緑色の衣装に盛大に血糊をつけ、カット、一度洗って、乾かして、白濁して、緑の絵の具を塗って、撮影再スタート!を繰り返していました。衣装がみるみる緑のグラデーションになってゆく。しかも、その衣装が買取りではなく、通りがかりの村人から借りていたと聞いて、さらに驚愕しました。

● 子猫がいないと

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映画に登場する可愛い子猫のシーン。「子猫の登場は割愛するべきでないか?」とエルラン監督に提案、しかし「子猫ちゃんがもういる前提に自分の頭の中でなっているから、子猫ちゃんがいないと撮れない」とコケティッシュにダダをこねられました。エルラン監督の話すロシア語の響きが可愛いからか、こちらも二の句が継げなくなり…結果的に編集でもカットできませんでした。

● 夜の野良牛

オルジャスが親戚のおばさんを追いかけて慌てて門を出て行くシーンの撮影。「急いでいる時に子供がわざわざ門を閉じないんじゃないか?」と私が指摘すると「カザフでは野良牛がいて、門を開けたままにしていると、野良牛が家の敷地に入ってくるからだ」とエルラン監督。確かに夜は、様々な獣たちの気配を感じながら懐中電灯の明かりを頼りに屋外のトイレに向かいます。門の外に目を向けると、野良牛がこちらをジッとこちらを見ています。徹底的にリアリティを追求するエルランのスタイルにその場で賛同しました。

● 撮影の合間に

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マディはまるでお祭りにやってくるみたいに駆け足で現場にやって来ます。待ち時間には、子役たちに謎のフーリガンごっこに強制参加させられました。最後までそのごっこの全貌がつかめなかったのですが……。日本人は珍しいらしく、彼らの中で私はちょっとしたアトラクションになっていました。子供だけでなくカザフ人は大人も純朴です。帰国後もカザフの草原の中にいた彼らのことを思い出し、感傷に耽ることがあります。蜃気楼じゃないかと思うほど特別な体験をさせていただきました。私は確かにあの日々、高校生の時に衝撃を受けた『ルナ・パパ』中央アジア映画の中にいました。

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    ——山田太郎

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